糖尿病新薬に重い副作用
◆危険な過小評価 臨床試験に甘さ
2000年10月15日 読売新聞朝刊より

 

 糖尿病の新薬に重い副作用があることが分かり、厚生省は緊急安全性情報を出して注意を呼びかけている。(医療情報部 田中 秀一)

 この薬は、塩酸ピオグリタゾン(商品名アクトス)で、血糖値を下げるホルモン、インスリンの働きを良くする作用があり、昨年十二月に発売された。その後、約一か月間服用した六十歳代の女性ら五人に、心不全の発症や悪化がみられた。
 幸い死亡例はなかったが、命にかかわる副作用だけに、厚生省は心不全の患者らに処方しないことなどを新たに求めた。
 医薬品は、市販前に患者に使って効果や副作用を調べる臨床試験を行い、厚生省の審査を経て製造承認される。同省は、今回のピオグリタゾンの副作用について、「臨床試験では認められなかった」としている。
 これに対し、医薬品を評価する「医薬ビジランスセンター」代表理事の浜六郎医師は「心臓への悪影響は、動物実験や臨床試験で示されていた」と疑問視する。
 国内の臨床試験で服用した患者に、心筋こうそくやどうきがみられ、「重い有害事象」として報告されていた上、米国での臨床試験でも心不全が現れていたからだ。
 それが、なぜ「市販前には副作用は分からなかった」ことになるのか。
 臨床試験の担当医師が、心筋こうそくなどの症状について「患者には以前から動脈硬化があったと考えられ、薬と関連がない」と判定し、試験全体の責任者もこれを支持したためだ。
 浜医師は「薬と関連があるとみるべき症状で、危険性を過小評価している」と、副作用チェックの甘さを批判。「糖尿病のように治療が長期に及ぶ薬は、高い安全性が必要」と、使用の一時中止を厚生省やメーカー側に申し入れた。メーカー側は「専門医と相談し、適正使用を進める」として販売を続ける。
 臨床試験で重大な副作用が見過ごされ、厚生省の審査もすり抜ければ被害は防げない。典型例が、九三年に起きた抗ウイルス剤「ソリブジン」薬害だ。
 この薬の臨床試験では、抗がん剤を服用していた患者三人が白血球減少などの副作用で死亡した。ソリブジンとの併用で、抗がん剤の作用が増強されたことが原因だった。ところが、その事実が見逃された。製造承認後は多くの医療機関で使われ、十五人が死亡した。
 その後、同省は新薬の承認審査を専門に行う機関を設けるなど体制を改めた。だが、課題も多い。医師らで作る「医薬品・治療研究会」代表の別府宏圀(ひろくに) 東京都立北療育医療センター院長は「薬には副作用があっても、それを上回る利点があれば容認される。
 だが、例えば抗がん剤はがんを小さくすれば薬として認められ、生存率を上げるかどうかは審査の対象になっていない。安全性を含め、薬のメリットとデメリットを総合判断する仕組みが必要だ」と指摘する。
副作用被害を防ぐには、臨床試験や承認審査に慎重さが求められる。長期的な作用が不明な新薬を扱う医療現場も、使用経験が不十分な薬が急速に普及し、被害を広げた例が過去に少なくないことを肝に銘じなければならない。

 

 

 

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