イレッサ情報 No8(改訂版)(2003.02.15号) (English)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版

  

NPO医薬ビジランスセンター

イレッサの副作用死亡率は増加している

死亡数183人,症例死亡率40%,死亡率は治験時の3倍に

2月7日の新聞各社は、イレッサの副作用問題でアストラゼネカ社が、1月31日までにイレッサの推定使用者数約2万3500人、厚生労働省に報告した間質性肺炎と肺障害の発症者473人、うち173人が死亡したことを報じた(その後読売新聞によれば、全副作用例は644人、副作用死亡者総数は183人)。マスメディアでは同時に、昨年末に厚労省が原則として使用開始から患者を4週間入院させるなどの措置をとるよう求めてから報告数は減少傾向にあるとのアストラゼネカ社や厚労省の談話を報じている。

 たとえば読売新聞は数字をあげ、「副作用死の問題が表面化した当初48%だった死亡割合は、緊急安全性情報を出した10月半ば以降には31%に低下。さらに昨年末以降は20%にまで下がった。」とした。

主張と逆にイレッサの副作用死亡率は増加している

 アストラゼネカ社と厚労省では、副作用発現日で集計した場合、副作用患者のなかでの死亡者の割合(医学用語では「副作用症例死亡率」という)が低下しているから、厚労省がとった対策の効果があったと主張している。
 しかし、これは死亡率のとり方のトリックである。図1のように、使用者に占める死亡の割合(真の死亡率)は経過とともに明瞭に増えている。図1は、イレッサが使用された1万人あたりの累積副作用死亡率を報告がまとめられた時期別に示したものである。1期は緊急安全性情報公表前(10月23日まで)、2期は、その後12月13日まで(ほぼ対策公表まで)、3期は12月14日以降(多少対策前の患者数が含まれているが12月の対策後にほぼ相当する)である。報告時期別の累積死亡率でみると、3期は1期の約2倍に上昇している(詳細データは表1)。

トリックの種は?

対策後に死亡率が低くなったのは、1)副作用が発現した日で集計したために、集計時期に近いほど生存例が多く報告されること、さらには、2)対策後は死亡例の報告手控えがありうる点である。

1)集計時期に近いほど、生存例が多く報告される

12月の対策をとった後に副作用が現れた患者は、症状が現われてからまだあまり期間が経っていない。早々と回復した患者は早く報告されるが、重症で死ぬかどうか分からない患者は報告が控えられるだろう。また、死ぬかもしれない重症患者がこの時期に報告されれば、生存例に含まれてしまう。だから、集計時期に近いほど、生存例が多く報告されるのは必然である。
 したがって、このような集計をすれば、対策が全くなくても死亡割合(副作用症例死亡率)は下がる。

2)対策後は死亡例の報告手控えがありうる

これだけ「イレッサの害」が言われているのに、医師の対処が遅れて不幸にも死亡した場合、医師の気持ちはどうだろう。あまり報告したくない気持ちになるだろう。では、死亡せず回復した例はどうであろうか。これほど問題になっているのであるから、回復した副作用例は「報告しなければ」という気持ちになるだろう。以前は副作用とは認識されなかった比較的軽い副作用も、イレッサによる副作用と認識され易くなったにちがいない。
 このことも、死亡割合(副作用症例死亡率)低下の理由に十分なりうる。

3)同じ時期なら後になるほど症例死亡率が上昇している

その証拠を表2に示す。公表時期が後になるほど、同じ時期に発症しても、副作用症例死亡率(報告副作用例数に対する死亡例の割合)は上昇している。
 12月5日参議院厚生労働委員会において小島医薬局長は、「副作用発現日により10月15日の緊急安全性情報発出前後で比較いたしますと、発出前は138例のうち死亡が57例、41.7%、発出後の95例のうち死亡が14例、14.7%」「このことから、緊急安全性情報による注意喚起の効果はあったものと考えております。」と述べた。
 一方、2月6日の報道によれば、副作用死の問題が表面化した当初48%だった死亡割合は、緊急安全性情報を出した10月半ば以降には31%に低下。さらに昨年末以降は20%に減少したとされる。
 10月半ば以降12月の対策公表までは31%に低下したとするが、12月5日の医薬局長答弁の14.7%と比較しても増加している。しかも、11月25日以降の1カ月間も入っていて同じ時期の比較ではない。10月半ば以前の死亡割合(正しくは「副作用症例死亡率」という)は、41.7%が48%まで増加している。
 この事実は、症状発現日からの期間が経過すればするほど、死亡割合(副作用症例死亡率)は増加するということを示している。
 今回は12月に対策がとられた後約1カ月目での集計である。緊急情報発出前の41.7%→48%、緊急情報発出1カ月間で14.7%→約2カ月間で31%と同様、今後1〜2カ月間の間に、副作用症例死亡率は20%が30%になり、さらには40%にも上昇する可能性が残されていると考えるべきであろう

正しくは「使用者数に対する死亡率」の時期別比較

では、イレッサの副作用死亡に対する影響の大きさの推移を検討するために最もよい指標とはどのようなものだろうか。
 イレッサ使用者数(または使用錠数)に対する副作用死亡者の比率を時期別に見るべきである。しかし、使用者数は累積数しかでていない。時期別の使用者数と使用錠数は現在アストラゼネカ社に問い合わせ中であるが、まだ回答されていない。
 累積患者数から時期別に新たに使用開始した人数を産出することはできるが、これを分母にすると、実際の使用者数よりも少なくなるため、死亡率が本来よりも高く出過ぎる。
 したがって、現段階でもっとも信頼できる数字は累積服用者数に対する累積副作用死亡者数の比率である。それを集計したものを表1に示した。
 累積数にしても、各時期の公表された数字よりも、2月6日に公表された数字をもとに、医師が副作用を報告した時期別に累積死亡数、死亡率を計算し直す(表1−b)と、1期の死亡率は1万人対64人、2期までの死亡率はさらに高くなり1万人対約84人(0.84%)に達する。3期で累積死亡率が低下しているのは、観察期間が短く死亡例が過少報告のためであろう。
 各時期の使用患者に対する副作用死亡者の比率は、おそらく、この累積死亡率よりも高いと推測される。
 そのような点に注意しながら、もう一度図1、2(表1,2)をじっくりとみていただきたい。
 これをみるかぎり、イレッサの害は、使用方法を注意するだけでは防ぐことができず、ますます拡大しているということが分かる。

誤った解析から本物の安全対策は出ない

アストラゼネカ社は会見で、4月ごろを目処に、患者約5千人を対象に病状の進行や合併症の有無などで効き方に違いがあるか、副作用の予防法はあるかなどの調査を始めるという。
 しかし、今後さらに5000人に新たに使用されると、新たな死亡者がまた60人以上、場合によっては300人も生じるおそれがある。
 そして、間違った解析だ安全との判断がされるとすれば、いつまでたっても薬害はなくならない。

3倍超の副作用死亡率は臨床試験での診断の甘さを示す

アストラゼネカ社が依頼した専門家でつくる委員会も中間報告を発表し、委員長の工藤翔二・日本医科大教授は「この薬を200人に使った場合、50人に効き、1人が副作用の肺障害などで亡くなる可能性があることを十分患者に説明して使ってほしい」と話した、という。
 しかし、副作用死亡率は、単独使用での臨床試験における副作用死亡率0.3%をはるかに超え、すでに0.84%と、臨床試験時の約3倍にもなっている。
 市販後は合併症を有する患者に処方されることが多いとはいっても、一般には十分な観察がなされる臨床試験の方が副作用報告率は高いものである。ところがイレッサの場合は逆に、市販後の方が高くなり、しかも時間を経るにしたがって、死亡も含めて副作用報告率が増加している。臨床試験の3倍もの増加を示したことは、臨床試験における「副作用」の判断がかなり甘かったことを物語っている。

臨床試験の有害事象例を徹底的に再検討すべき

臨床試験の有害事象例には多数のイレッサによる副作用例が含まれるはずである。これらの例を徹底的に再検討すべきである。

お詫びと訂正
2003.2.13版イレッサ情報No8に一部誤りがありました。お詫びし、「改訂版」をお届けします。 イレッサ情報No8の表1、表2、図2、図3で「副作用発症時期別」としていたのは、「医師による副作用報告時期別」でした。それにともない、本文の解析も訂正しました。またその変更にともない、「報告時期別集計」を区別する意味で「公表時期別集計」としました。なお、この訂正をした後も、全体の論旨と結論に変更はありません。

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