2002年12月6日

 かねてから、反対をしていた医薬品関連の「独立行政法人法案」の参議院厚生労働委員会での採決が、12月5日見送られました(他の8議案は可決)。
 これまでの概略を以下にご報告いたします。今後、12月11日には、この法案の審議の予定は全くなく、あるとすれば12月12日だということですが、これだけもめた法案が、会期末の前日にかかって採決されることはまずないであろうとの見通しもされていますが、しかしなお、油断はできません。
 最終的に廃案ねらって、今後も活動を続けていく覚悟をしておりますので、ぜひとも、それぞれ、周囲の方にもお知らせ、働きかけをお願いします。

医薬品関連「独法」採決されず

 12月5日に参議院厚生労働委員会で採決が予定されていた「独立行政法人医薬品医療機器総合機構法案」(新法人法案)の採決が12月5日、延期された。

 これは、多数の薬害被害者、NPO法人医薬ビジランスセンター、薬害オンブズパースン会議のメンバーなど多数の人々がそれぞれの持ち味を生かした役割を果たしたことで、なし遂げられたといえよう。

 この間、厚労省は、製薬メーカーには8月の上旬には勉強会と称して説明をしながら、薬害被害者には9月の下旬になってはじめて説明したことが判明した。

 しかも製薬企業の人材がこの新法人に自由に出入りするという点については、全く説明もしていなかった。このことは、10月末になってはじめて薬害オンブズパースン会議が入手した「法案」の条文を医薬ビジランス研究所で注意深く検討した結果判明したものだ。

 この重要な点をふまえた見解を、医薬ビジランス研究所とNPO法人医薬ビジランスセンターから、多くの人々に発信し、薬害被害者の方々、薬害オンブズパースン会議等に働きかけ、一気にこの法案の問題点が大きく浮かび上がってきた。

 薬害被害者の方々は、厚労省との折衝や記者会見などでは先頭にたってこの新法人の問題点を訴え、薬害オンブズパースン会議では、主要メンバーの弁護士を中心に、ロビー活動とマスメディア対策、種々団体への共同行動の呼びかけなどを行った。

 このような努力にもかかわらず、11月19日には衆議院で46法案の一つとして一括可決したが、参議院に付託されてからは、さらに強力に議院や厚労省に働きかけていった。

 その結果、12月2日には参議院において、薬害被害者の2人(スモン全国患者連絡協議会高橋豊栄さん、スティーブンス・ジョンソン症候群被害者湯浅和恵さん)とともに、浜六郎(NPO法人医薬ビジランスセンター、薬害オンブズパースン会議)が参考人として意見を述べた(資料1)。

 浜は、医薬品の有効性や安全性を専門に検討している医師として発言。この法案の最大の問題点は、新法人で実務を担当する職員として企業出身者が積極的に投入される点を特に強調した。

 また「分子標的治療薬」とのふれこみで6カ月足らずで承認された全く新しいタイプの肺がん用抗がん剤「イレッサ」の問題を重点的にとりあげた。イレッサは、すでに10月26日現在(販売開始後3カ月あまりで、125人の間質性肺炎、約39人の死亡者を出した、たんへんな薬剤である(11月25日現在291の間質性肺炎、81人の死亡者がでていることが、12月4日判明)。

 イレッサの新薬承認情報集(資料2)によれば承認前の動物実験で抗腫瘍効果の出る量の数分の1で肝細胞壊死を起こしている。部分反応(腫瘍が2分の1の大きさになるのが1カ月以上持続する反応)を示す患者はたった8%だが、その量で7%の患者がイレッサの影響で死亡するというデータが出ている。このようなものが、薬剤として通用していること自体おかしい点を強調した。

 また、アストラゼネカ社は、真に臨床的な意味を示す「延命効果はなかった」との第3相大規模臨床試験の結果を8月19日にFDAに提出した。このデータを重視したFDAは「迅速承認は疑問である」とし、9月24日の抗腫瘍剤諮 問委員会(ODAC)の検討と勧告の後まで承認を延期するとした(資料3)。その後11月30日現在、承認されていない。

 ところが、日本は、同じデータを用いながら、その2日後(8月21日)には、薬価収載を決定し、8月30日には薬価収載され、保険診療で使用できるようになった。その結果が、多数の死者につながったのである。

 国が承認審査や安全対策をしていてもなお、問題物質が続出している。企業人も参加した新法人でこのようなことをすれば、もっと偏った審査や安全対策になることは明らかであることを指摘した。

 12月4日には、厚労省前でビラまきやリレートークをするとともに、午後からは薬害オンブズパースン会議メンバー、医薬ビジランスセンターのメンバーで各議員へのロビー活動を精力的に実施した。

 厚生労働省では10月28日付けで、アストラゼネカ社に対してイレッサの件を追加調査するように指導していたので、その期限である11月27日は過ぎている。したがって、すでに相当数の副作用被害データが集積されているはずだから、ぜひ厚労省に聞いてほしい旨を小池議員(共産党)にその時に依頼しておいた。

 また、薬害被害者と厚労大臣との面談を計画したが実現はしなかった。

 12月4 日の遅くに、小池議員が厚労省側から聞き出したデータは以下のとおり。

 「11月25日現在で、291 人の間質性肺炎等、有害作用で81人が死亡した。」

この情報が、12月5日の各紙朝刊に掲載された。

 12月5日の朝9時、イレッサで31歳の娘さんを亡くされた父親が、記者会見に出席。

 イレッサの害の経過について、浜が解説した。

 12月5日、参議院厚生労働委員会において、山本議員(民主党)は質問の冒頭、坂口大臣に対して、薬害被害者にどうして会わなかったのか、この昼休みにでも会ってもらえないか、と質問した。坂口大臣は、「自分の考えを整理してから会いたい。本年中にも会いたい」と答弁した

 事務方からのメモを渡された後に、「この法案が成立してから、いろいろ考えを整理して会うとの意味である」と訂正ともとれる答弁をしたが、この発言の解釈をめぐって、午後の委員会の再開が2時間あまり遅れることになった。

 イレッサで多数の死亡者を出したことが判明したことと相まって、厚生労働委員会の理事会で、他の法案は可決成立しても、医薬品医療機器総合機構法案に関しては、別に扱い、12月5日は採決しないことで合意したとのことが伝えられた。

 午後3時5分から再開された委員会で、小池議員からイレッサについての質問がなされ、新たな事実がいくつか判明した。

 1.7月18日に死亡例の第1例目が厚労省に報告された(販売開始は7月16日)
   2例目は8月16日であった

 2.8月19日、アストラゼネカ社からFDAに報告された「イレッサが生存率を延長しない」ことは、日本では、担当者には伝わっていたが、小島医薬局長のところまで届いていなかったことが判明した(現場の責任になすりつけるための方便か??実際にそうなら、これほど重要なことが伝わらないのも責任問題だと思うが。それに、新法人になれば、国の責任がより希薄になることは間違いない)。

 3.イレッサの件についての再検討について
   小島医薬局長:イレッサの件については安全性部会で検討することにした
   坂口厚労大臣:(小池議員のいったような)そういう問題があるから検討する
          すべてのことを含めて検討する。
          (これは単に安全性評価の問題だけではなく、承認審査のあり方なども含めて検討するという意味が込められていると見てよい)

 4.副作用情報など情報開示は大切であり、毎日毎日でなくとも、(頻回に)公開しないといけない。外部から見たとき、すべての人に分かるように情報を開示したい。
   (この見解は、人手の増加が実現できる新法人の必要性を言うためではあろう。
    しかし、このように明瞭に、積極的公開の原則を明確にした意義はあろう)

 薬害オンブズパースン会議と東京HIV弁護団、医療問題弁護団(東京)では「イレッ サ」110 番を立ち上げて、被害者の相談に応じることにした。

 詳細は、医薬ビジランス研究所で検討、分析することになる。

 なお、12月2日に参議院厚生労働委員会で浜が参考人として発言した内容はこちらへ

参考

1) http://www.sangiin.go.jp/japanese/frame/joho1.htm
2) http://211.132.8.246/shinyaku/g0207/06/67022700_21400AMY00188_110_1.pdf
およびhttp://211.132.8.246/shinyaku/g0207/06/67022700_21400AMY00188.html
3) http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/02/briefing/3894B1_03_FDA-Medical%20Officer%20Review.doc