(2016.07.01号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No170

タミフルの害反応に関する総説英語論文2編出版

タミフルの害反応の基礎医学的根拠に関する英文総説論文[1,2]が出版された。

  1. Hama R, Bennett C. The mechanisms of sudden-onset type adverse reactions to oseltamivir Version of Record online: 30 JUN 2016. DOI:  10.1111/ane.12629 (html版 Free) (pdf版 Free)
    第1総説「オセルタミビルの突発型 害反応の発症機序」日本語訳(参考文献付)(Free)
  2. Hama R. The mechanisms of delayed-onset type adverse reactions to oseltamivir Infect Dis (Lond).  2016 Sep;48(9):651-60. doi: 10.1080/23744235.2016.1189592. Epub 2016 Jun 2
    第2総説「オセルタミビルの遅発型 害反応の発症機序」日本語訳(参考文献別)(Free)
    第2総説英文原文は、こちらから読むことができます(現在Free access手続き中)

背景と意義

タミフル服用後の突然死や重い後遺障害、あるいは異常行動後の事故死に関して、副作用被害の認定を求めて国を提訴した裁判は、まだ続いている。タミフル裁判は過去のことと思っている人がいるかもしれないが、被害者とその家族(遺族)は、今も、粘り強く害を訴えている。東京、名古屋、大阪で、全国から14家族が提訴しているが、名古屋、東京での裁判は、地方裁判所(第1審)、高等裁判所(第2審)とも、患者・遺族側の敗訴となった。

NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)では、2005年から一貫して、タミフルとの関連を指摘してきた。薬のチェックTIP誌編集長(浜医師)は、裁判で、臨床的、疫学的、基礎医学的な面から、意見書や鑑定意見書を提出し、国(医薬品医療機器総合機構:PMDA)側の主張や、その根拠となった国側証人の意見や意見書に科学的根拠のないことを批判してきた。しかし、科学的根拠は無視され、被告国の意見だけで判決がなされた。あろうことか、被告側が主張しないような推測を裁判官が判決文に記述してさえいる(註)。

高裁判決に先立つ、2014年4月、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューの結果[3]が、コクラン研究として発信された。しかし、英語であるためか、これの重要性を日本のメディア関係者へ広報しても、詳細な取材をしてきたのは、読売新聞のワシントン支局だけであった。

今回、ようやく出版にこぎつけた2つの総説論文は、基礎医学的な点から、タミフルと害との詳細な関連を示すものである。当初、論文の出版は、利益相反があると思われる査読者による掲載拒否(reject)の判断で困難を極めた。しかし2016年6月2日、遅発型反応[2]に関する総説論文がonline出版され、突然型反応[1]に関しても6月30日にonlineで出版された。突然型反応[1]に関しては、Free Access可能である。遅発型反応[2]に関しては、7月1日現在、FreeAccessの手続き中である。

これらの論文の、日本語版を、それぞれ掲載したので、ご覧いただきたい。

これら2つの総説論文は、ヨーロッパCDC(ECDC)意見書(案)に対するHamaらの批判的意見書[4,5]の、基礎医学的根拠の詳細でもある。

また、コクラン共同計画のシステマティックレビューでは、ノイラミニダーゼ阻害剤が、肺炎や入院を減らさないという知見を得たが、その理由が、遅発型反応[2]の発症機序でと密接に関係していることについても詳細に検討している。その点で、きわめて重要な総説論文であると考えている。ぜひごらんください。

註:このときの名古屋地裁判決文は、いずれ公表して徹底的に批判したい。

第1総説論文 オセルタミビルの突然型害反応の発症機序

第一総説論文の要旨はおおむね以下のような内容である。

オセルタミビル(商品名タミフル)は、日本では異常行動が起こりうるとの問題から、10~19歳には原則禁忌であり、突然死も問題だ。本稿では、オセルタミビルによる異常行動や突然死などとの関連を示すエビデンスに焦点を当てて、突然型反応の発症機序を述べる。

  1. 毒性試験における動物モデルの重要性と、ヒト等価用量(HED)の重要性。
  2. オセルタミビルが用いられるインフルエンザ感染という条件。
  3. 毒性試験(販売前と販売後)から得られた所見。
  4. 動物とヒトにおいて観察された毒性所見の類似性と整合性。
  5. 毒性学的薬物動態的な説明、分子生物学的レベルの証拠(チャネルや受容体、酵素)、他のノイラミニダーゼ阻害剤の毒性との違い。

その結果、以下のような結論を得た。

未変化体のオセルタミビルは、臨床的に得られた所見――低体温や異常行動、特に死亡に至る異常行動、突然死――につながる様々な中枢神経系に対する作用を有する。中枢神経系に関連する受容体や酵素のうち、いくつかでオセルタミビルとの関連が証明されている。ニコチン性アセチルコリン受容体の阻害作用は低体温と関連がある。モノアミン酸化酵素-A(MAO-A)に対する阻害作用は異常行動や興奮性の行動と密接に関連がある。呼吸抑制とその後の突然死や、精神病反応(急性・慢性)に関連した受容体/チャネルとしては、GABAAやGABAB、NMDA、さらにはこれらと関連のある受容体/チャネル、たとえばNa+やカルシウムチャネルなどが候補として考えられる。

第2総説論文 オセルタミビルの遅発型害反応の発症機序

要旨

オセルタミビルは、インフルエンザ感染の高リスク者、たとえば糖尿病や精神神経疾患、呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液系疾患などを有する患者の治療および予防に推奨されている。しかし、最近のコクランレビューでは、抗体産生の低下、腎障害、高血糖、精神障害の増加、QT間隔の延長が、オセルタミビルの使用に関連しうることが報告された。本稿では、その発現機序について検討を加える。

決定的エビデンスは、ノイラミニダーゼ遺伝子を持たないRSウイルス(RSV)を感染させたマウスに臨床使用相当量のオセルタミビルを投与すると、症状が緩和し、ウイルス消失が阻害されたことである。この作用は、ウイルス感染により宿主の内因性ノイラミニダーゼによって増加すべきT細胞表面のスフィンゴ糖脂質(ガングリオシド) GM1が、オセルタミビルにより低下するために起きていると考えられている。

ヒトのインフルエンザウイルス感染実験では、臨床用量のオセルタミビルが、インターフェロン-ガンマ、インターロイキン-6、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)などの炎症性サイトカインをほぼ完全に抑制する一方、ウイルスの排出抑制は部分的でしかなかった。このような結果は、他の多くの臨床的、非臨床的エビデンスでも支持されている。腎疾患や心疾患(徐脈、QT間隔の延長)に関する臨床的エビデンスは、動物の毒性試験により裏付けられており、代謝作用(糖尿病誘発作用)についても、毒性実験の結果は矛盾しない。

オセルタミビル使用後の抗体産生およびサイトカイン誘導の低下、腎障害、代謝障害、心疾患、遷延型の精神障害は、宿主の内因性ノイラミニダーゼの阻害に関連していると考えられる。

通常用量のザナミビルにはこの作用はないが、ザナミビルおよびその他のノイラミニダーゼ阻害剤をより高用量または長期使用すると、抗体産生やサイトカイン産生の低下など同様の遅発型反応を誘発しうる。

参考文献

  1. Hama R, Bennett C. The mechanisms of sudden-onset type adverse reactions to oseltamivir Version of Record online: 30 JUN 2016. DOI:  10.1111/ane.12629
  2. Infect Dis (Lond).  2016 Sep;48(9):651-60. doi: 10.1080/23744235.2016.1189592. Epub 2016 Jun 2
  3. Jefferson T, Jones MA, Doshi P, Del Mar CB, Hama R, Heneghan CJ. et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database of Systematic Reviews 2014: Issue 4. Art. No.: CD008965.
  4. Hama R, Jefferson T, Henehgan C. Comments on the ECDC’s Expert Opinion (2016-3-13):
  5. 編集部、タミフルの効力と害、薬のチェックTIP2016; 16(65): 66-68. web資料

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