(2007.5.17号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No84

インフルエンザだけで突然死はない!
—日本小児科学会で確認−

発表した演題3題:            
   (1)睡眠中突然死・肺水腫2例    
   (2)意識消失・痙攣後発達障害例   
   (3)横田班報告書批判        

横田氏発表への質問は,座長が遮り討論不能

NPO法人医薬ビジランスセンターから、日本小児科学会で、4月20日、3題を学会発表した。

いずれもタミフル(未変化体)の中枢抑制作用による例であると考えられることから、(1)と(2)の2題を続けて報告し、その後(3)横田班報告の批判を行った。そのポスター報告と主な質疑応答の内容を掲載する。

(1)睡眠中突然死・肺水腫2例
(2)意識消失・痙攣後発達障害例

【発表の要旨】

当センターで相談を受けた4人の突然死・心肺停止後の痙攣を生じたと思われる例を報告した。(1)の2例は典型的な睡眠中の突然死で、どちらも解剖によって肺水腫が認められた例である。このうち1人は、タミフルを服用後睡眠し、約2時間後に心肺停止し、解剖で肺水腫が認められた3歳男児、もう1人はタミフル2カプセルを処方どおりに服用しすぐ寝たが、推定服用3時間後、睡眠中に心肺停止し、解剖で肺水腫が認められえた39歳男性の例である。

また、(2)の1例は、一時的な心停止後に痙攣が重積した後、一見意識が回復したがその後発達障害を生じた10か月(当時)の女児である。もう1人は、おそらく心停止に伴う痙攣を2度起こしながら完全回復した14歳男子である。

さらに、心肺停止が長引いたために、かろうじて蘇生し死亡を免れたが、寝たきりの後遺症が残った1歳未満の例が厚生労働省から報告されていたので、これも紹介した。この例では、臨床的にも一時的に肺水腫を生じながら翌日には肺水腫が消失したので、2例の死亡例と、発達障害を生じた第3例目の中間的重症度である。

動物実験で示された症状と人で経験された症状の類似性、について報告し、いかに動物と人に生じた症状がよく似ているかを示した。

質疑の中でも、座長(司会者)の細谷光亮氏(福島県立医大小児科)とのやり取りは、象徴的であった。

(1)と(2)の発表について:

座長:タミフルを服用していないでインフルエンザで突然死している例があるが、それをどう思うか。

浜:タミフルを非服用の突然死は、他の薬剤が関係している。何も服用せずインフルエンザだけの例は知らない。そうした例は本当にあるのか?

座長:ある。

浜:あるならその文献を教えてほしい。

座長:塩見氏の報告だ。

浜:塩見氏のもとの論文で基礎疾患も薬剤服用もなしとされた例は、その後、喘息があり、テオフィリンを常用していたことが判明している。服用中40℃の発熱をしたため、クリアランス(薬物の除去)が悪くなり、テオフィリンの血中濃度が上昇し、痙攣したと考えられる。この患者には双子の兄弟がいて同じようにテオフィリンを服用中にインフルエンザに罹患した。もう1人の子も、患者が突然死した1時間後に痙攣を生じた。救急隊到着時すでに死後硬直があったことも痙攣を思わせるので、テオフィリンによる痙攣・心肺停止・突然死例である。

(3)横田班報告書批判

【発表の要旨】

横田班は、インフルエンザ罹患時のタミフル使用と異常言動との関連性は、不使用10.6%、使用11.9%で有意差がなく、関連を認めなかったとの趣旨を報告した。そこで、これを批判的に吟味し、研究班の結論が正しいかどうかを検証した。

通常、こうした疫学調査を実施し、解析するにあたっては、動物実験や症例報告などをよく調べ、薬剤で起きるとすればどの時点でどういうことが起こりうるかを検討しなければならない。検討すれば、感染初期(すなわち発病初日)の高サイトカイン血症時にはタミフル未変化体は、乳児以外の小児、成人でも脳中で高濃度となりうることが容易に予測でき、予測しなければならない。

横田班調査で無視したこれらの手続きを踏めば、初日午後における服用確実例と未服用確実例に限った集計が最も重要な意味を持つことがわかる。それを集計した結果、タミフル服用で異常言動が4〜5倍増加すること、幻覚は12倍増加すること、また、2日目以降はほとんど差がなくなること判明した。

バイアスをそのままとした報告書は間違いであり撤回すべきである。

(3)横田班報告の批判の発表について:

Q1(座長に対して):座長は横田班の班員だが、この批判をどう考えるのか。

座長:統計解析は基本的には数理研究所にまかせてある。

Q2(座長に対して):初日の昼の異常言動が有意に高いという結果になっている点に関して、どう考えるのか。

座長:初日の昼に服用して発症した人は、タミフルの服用が先なのか、異常言動の発症が先なのか不明である。したがって、このデータでは差が有意であるとはいえない。

浜:だからこそ、私は、タミフル服用と発症との前後が不明な例は除外し、服用例は、午前中すでに服用した服用確実例だけ、未服用例も午後6時までは未服用確実例に限って集計した。その結果がこのグラフだ(スライド番号10)。異常言動が4倍、おびえや恐怖は5倍、幻覚では12倍などと、すべて有意であった。報告書中のデータだけでここまで解析できる。

座長:時間の関係で次に進めたい。

横田氏発表への質問は,座長が遮り討論不能

4月22日(日曜日)、横田班調査結果に関して横田氏自身による口演発表があった。この問題についての関心の高さを物語るように、入り口ドアの外にも立ち見ができるほど多数が聞きに来ていた。

横田氏の報告が終了するや否や、浜が質問に立ち、このような調査に対して批判していることを述べ、動物実験や症例報告などをよく調べ、薬剤で起きるとすればどの時点でどういうことが起こりうるかを検討しなければならない、など、【発表の要旨】で述べたような内容について発言しようとした。

ところが、横田氏は、発言を途中で遮り「動物の問題は関係ない」と述べ、浜が「そうではない」と理由を述べようとしたところ、座長は「質問者は自分の意見ではなく質問を」と不当にも発言を遮った。(通常、学会の議論では質問のほか、追加発言、コメントを言うことができる。座長が勝手に「質問だけ」と制限したのは筋違い。)

「この種の調査では事前に薬剤の性質について検討することが重要であるから、それを検討したかを質問しようとしているのだ」と発言しようとしたが、それも遮断した。

会場から「全くタミフルを服用していない人と、服用した人での出現頻度を比較したか」と適切な質問がされたが、「未服用と服用とを比較したので答えている」と、質問者の趣旨を解しない筋違いの回答をしただけであった。

最後に再び、浜が、「肺炎が減少したかのような結果となっているが、ランダム化比較試験の結果では、服用終了後の肺炎合併が有意に高かった。服用終了後の調査をしていないのは問題」と発言しようとしたが、これも、座長が途中で遮断し、最後まで発言をさせなかった。そして「発言を続けるなら座長権限を行使する」、と、強権的な発言をする始末。それに対して会場から拍手が起きるなど、会場は異様な雰囲気であった。

ついに横田氏は、演者席から立ち去り、座長は、一方的に議論を終了させてしまった。

この件に関して、なぜに日本小児科学会は科学的議論を避けているのであろうか、その真意の理解に苦しむ。

薬剤疫学会が議論の場を設定
 ——横田班員と批判者による徹底討論——

来る5月20日、1時〜5時、東京大学医学部構内において、日本薬剤疫学会が主催して、タミフルと異常行動・突然死などに関する議論の場がもたれる。

日本薬剤疫学会
特別シンポジウム「インフルエンザ罹患後の異常行動と薬剤疫学」

この議論の場には、横田班の研究結果とそれに対して批判し、撤回を要求している浜(NPO法人医薬ビジランスセンター:薬のチェック)もシンポジストの一人となっている。その場では徹底的な議論が可能と思われるが、小児科学会のような発言制限がなされないように願いたいものである。


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