(2003.10.25号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No39

くすりの危険情報報告基準(案)に意見書提出

NPO法人医薬ビジランスセンター   浜  六郎

市販後の薬剤による危険性を早期発見し、安全対策につなげるための手段の一つとして、緊急報告すべき情報に関する国際的基準に則った日本の基準が作られることになり、その厚生労働省案(注1)に対するパブリックコメントの募集があった。

浜六郎(NPO法人医薬ビジランスセンター理事長、医薬ビジランス研究所長)が、2003年10月23日に提出した意見書全文を紹介するとともに、そのポイントを解説する。

注1:承認後の安全性情報の取り扱い:緊急報告のための用語の定義と報告の基準(案)

浜意見書のポイント

  1. Adverse reactionの訳語は「副作用」でなく「害反応」とすべき

    "adverse" は「目的に反する」の意味があり、"adverse reaction"は、人に不都合な反応、有害な反応を意味している。「作用」は薬剤が保有する性質に関する用語であり、反応は使用者に生じた性質であるため、reaction(反応)に「作用」を当てると、しばしば不都合が生じる。

    "adverse event"の訳語としては「有害事象」が用いられているのであるから、adverse reactionには「害反応」もしくは「有害反応」を用いるべきである。

  2. 緊急報告の対象は害反応に限定せず「重篤な有害事象」に

    緊急報告を求める理由は、医薬品の未知の危険性を発見するためである。未知であるということは、どのような性質の有害なことが報告されるか不明ということであり、報告されるべき例は薬剤との因果関係が不明であることを意味する。

    基準案では、副作用(害反応)の報告だけを緊急報告するようにと求めている。害反応(副作用)は、ある医薬品を使用後生じた有害なできごと(有害事象)の中で、医薬品との関連が否定できるものを除いたものと解釈できる。しかし、有害事象のうち、医薬品との関連が否定できるものがどのようなものか、説明は一切なされていない。

    現実面をみると、たとえばイレッサ(ゲフィチニブ)の臨床試験では、薬理学的、毒性学的作用の面から、明らかに有害反応とすべき例の大部分の関連が否定され、害反応(副作用)とされなかった(イレッサ情報No13(2003.05.05号))。

    市販後の有害事象、害反応(副作用)の収集においても、これらを区別して収集することは、極めて危険である。

    害反応(副作用)のみを報告の対象とすると、たとえ有害事象としての認識はあっても、医薬品との関連が容易に否定され、報告されなくなる危険性が高いからである。

    したがって、未知の重篤な危険性を早期に発見するという、重要な目的を達成するためには、重篤な有害事象はすべて収集しなければならない。

  3. 報告すべきは「予測できない副作用」でなく「予期せぬ有害事象および害反応」でなければならない

    基準案では、"unexpected" adverse reactionに関して、「予測できない副作用」としている。しかし、"unexpected"は「予期しない」「思いがけない」「意外な」「予期せぬ」であり、「予測できたか否かは問わず」「予期(予測)しなかった」との意味であるから、"unexpected" adverse reactionは「予期せぬ害反応」である。

    また、予期せぬ有害事象は、たいてい未知の事象であるから、使用薬剤との因果関係は否定的にとらえられやすい。緊急報告を求める目的は「未知の予期せぬ害」を避けるためであるから、「予期せぬ有害事象」こそ、緊急報告の対象として最も重要なものである。

    報告対象を「予測できない副作用」に限定してはならない。「予期せぬ有害事象および害反応」をすべて報告対象としなければならない。

  4. 医学的裏付けは、一般使用者(患者、市民)からの直接報告を受けた後でよい

    基準案では、一般使用者からの直接報告に関して、自発報告として取扱わねばならないとしているが、「医学的裏づけ」を報告の際に求めるともとれる記載がある。しかし、「医学的裏づけ」は報告を受けた後に行えばよく、この点についての記載は削除すべきである。また、「医学的裏づけ」は、当該医療機関の判断ではなく、客観的な事実に基づき、公正に判断されなければならない。「医学的裏づけ」を当該医療機関の判断に依存することにより、しばしば重大な「害反応」(adverse drug reaction)を見逃す危険性があるからである。

  5. 全体のタイトルは「安全性情報」でなく「危険情報」とすべき

    緊急報告として収集しようとしている情報は、医薬品の安全性にかかわる有害事象および、有害反応、すなわち、医薬品の危険性、あるいはその可能性を示す情報である。したがって、「安全性情報」ではなく、「承認後の危険情報の取り扱い」とすべきである。

(その他、および、参考文献、資料は、本文を参照ください)。


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