一歩前進したインフルエンザへの

NSAIDs解熱剤使用制限

・・・「NSAIDs禁忌、アセトアミノフェンのみ」の徹底を

                 医薬ビジランスセンターNPOJIP  

 

 
 インフルエンザへに対する NSAIDs 解熱剤の使用制限を加えた今回の一連の措置は、不十分だが、初めて脳症との危険の関連を認め、使用制限し、「解熱剤を使用するならアセトアミノフェンに」の勧告(小児科学会)など、これまで医薬ビジランスセンターNPOJIPや医薬品・治療研究会が中心になって主張してきた考えに近づいた、一歩前進ととらえたい。全ての医師は「インフルエンザ等感染症においてNSAIDs解熱剤は禁忌とし、基本的に解熱剤は不要だが、どうしても使用するならアセトアミノフェンのみとすること」を徹底されることを勧めたい。

 脳症とNSAIDs解熱剤との関連がまた確認された
 11月15日、厚生省インフルエンザ脳炎・脳症研究班(森島班)の、ジクロフェナク(ボルタレン等)の危険が14倍高かったとの研究結果を受け、厚生省は「インフルエンザ脳炎・脳症患者に対するジクロフェナクナトリウムの投与を禁忌とする」とした。また、これを受けて11月16日、メーカーからも同様の趣旨の「緊急安全性情報」が出された。また、これに先立つ11月13日、日本小児科学会理事会からは後述するような「インフルエンザ脳炎・脳症における解熱剤の影響について」会員に対するおしらせが出されていた。

 インフルエンザそのものに禁忌とすべき

 メーカーはジクロフェナクが「インフルエンザ脳炎・脳症の発症因子ではない」と因果関係を否定したが、森島班の調査では「脳炎・脳症が発症してから」でなく「脳炎・脳症発症前から」の「解熱剤」が調査されており、データはNSAIDsとインフルエンザ脳炎・脳症の発症から死亡までの危険性との関連を示している。発症因子としての関与を否定できるような調査ではない。だれが見ても「インフルエンザ脳炎・脳症患者になってしまった患者に対する禁忌」では不十分だ。

 「使用するならアセトアミノフェン」は一歩前進

 しかし、今回の小児科学会理事会が示した「何らかの関与」の可能性、「インフルエンザ治療に際して非ステロイド系消炎剤の使用は慎重に」「インフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであればアセトアミノフェンがよい」との見解は公的機関が初めて示した、私たちのこれまでの主張に近づく一歩前進と受け止める。

 全ての医師は小児科学会の勧告に従うべき

(1) インフルエンザに対して非ステロイド抗炎症剤NSAIDs解熱剤を使用しないこと(2) インフルエンザで解熱剤を使用せざるを得ない場合には、アセトアミノフェンを選択すること、を徹底すべきである(詳しくはTIP誌2000年11月号参照)


 この問題に関連して、NPOJIPと医薬品・治療研究会が共同してて第6回日本薬剤
疫学会(11月11日)に発表した内容を以下に示します。

仮説:日本のインフルエンザ脳症の主因

NSAIDs系解熱剤

 NPO 医薬ビジランスセンター1) 医薬品・治療研究会 2) 府立羽曳野病院 3)
 大阪赤十字病院4)名城大・薬5)府立成人病センター調査部6)
 奈良産業大・法7)都立北療育医療センター8)
 ※浜 六郎 1) 2) 坂口啓子 1) 2) 高松 勇 3)  山本英彦 4)
  大津史子 5)   大島 明  6)   天野淑子 7)  別府宏圀 8, 2)

【目的】

 1970年代まで原因不明であったライ症候群とサリチル酸系解熱剤との関連が1980年代になって症例対照研究で指摘され, 公的に警告が発せられ, アメリカをはじめ世界各国でサリチル酸剤の使用が激減し, それとともにライ症候群の発生は激減した.しかし,日本ではライ症候群をはじめインフルエンザ関連脳炎や脳症(以下ライ症候群/脳症と略)の発生は依然として毎年 100-200人の規模で続いており,原因が未だに不明とされている.

 これまでの知見を総合レビューし,欧米でライ症候群の危険因子とされたアスピリンに代わる日本における主要な危険因子として,非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)系解熱剤を考えるに至った根拠について考察し,今後日本において,この仮説を検証するための薬剤疫学的研究の方法についても考察することを目的とする.

【方法】

 これまでのライ症候群/脳症の疫学調査研究論文,ライ症候群のサリチル酸製剤による発症機序に関する内外の文献,厚生省のライ症候群関連研究班の報告書,大阪府医師会勤務医部会の原因不明の脳症に関する報告書,サイトカインとライ症候群/脳症に関する内外の論文,日本における解熱剤使用の実態調査に関する報告などを総合的に検討した.
【結果】
【仮説】以下の2つの仮説を設定する.

<第1仮説>

  日本のライ症候群/脳症の主因は,NSAIDs系解熱剤である 

<第2仮説>

  死亡に到らない脳症(後遺症を含む)の主要な原因は痙攣誘発する可能性のある薬剤(テオフィリン、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤等)が関与している.

【仮説を設定した根拠】要点をまとめると以下のようになる.

【疫学的証拠−1】

[1] 欧米ではライ症候群の主因はアスピリンであることが多くの症例対照研究で確認され,両者の関連は確立され,使用が制限された結果ライ症候群は激減した.

[2] 日本ではアスピリンが解熱剤としてほとんど使用されなくなった後もライ症候群をはじめライ症候群/脳症が毎年 100〜200 人発生している.
[3] 日本ではもともとアスピリンの使用量(頻度)は少なく,代わりにアスピリンと基本的に同一で,さらに強力な薬理作用を有する非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs) 系の解熱剤(ジクロフェナク,メフェナム酸,スルピリンなど)が使用されてきた.

【動物感染実験でのNSAIDs/サリチル酸の影響に関する証拠】

[4] 動物実験(爬虫類,ウサギ)では,ウイルスや細菌を感染させ,非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)で解熱すると,解熱傾向を認めるが,死亡率は明瞭に増加する.また解熱した動物の方が,死亡率が高いことが判明している.
[5] それとともに,白血球は減少し,ウイルスや細菌は10倍〜100 倍と増加し,サイトカイン類が増加し,組織に壊死性の変化が出現する.

【病態生理学的証拠】

[6] ライ症候群/急性脳症の発症および重症化に対して,サイトカインの関与がほぼ確実視されている(細胞傷害性サイトカインは、脳炎/脳症群は著明高率(96%:n=23)だが熱性痙攣のみでは低率であった(0%n=20))
[7] 非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)はアスピリンも含めサイトカインの誘導を増強するが,アセトアミノフェンは同等薬効のレベルで誘導をほとんど増強しない.
[8] 上記の違いは,非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)にある末梢での抗炎症作用が,アセトアミノフェンにはほとんどないことによると考えられる.

【ヒト臨床試験に関する根拠】

[9] ヒトの臨床試験でも,解熱剤を使用した方がウイルス疾患の治癒(最終的な解熱時期)が遅くなったとの結果が散見される.
[10]ヒト臨床試験でイブプロフェンを重症感染症(敗血症等)に使用した場合,プラシーボとの間に死亡率で有意の差がなかったとの報告や,2万人以上を対象とした大規模のイブプロフェンとアセトアミノフェンを使用したRCT があり,重篤な合併症や入院率には差があかったとの報告があるが,ライ症候群/脳症の発症は10万人に1人の程度の危険であるために,差が現れなかった可能性がある.

【疫学的証拠−2】

[11]メフェナム酸を解熱剤として使用している日本および台湾において,急性壊死性脳症の報告が多い.
[12]仮説を支持する調査結果が,厚生省の別々の研究で過去3度にわたり示されている.

 

 

厚生省90〜92年
報告書

同1999年
報告書

同1994・95年
報告書

 

ライS#(確+疑)

ライS#/脳症

NSAIDs使用率

 

症例死亡率

症例死亡率

 

NSAIDs使用

    66.7%(8/12)★a

 *a53.1%(17/32)★b

   ライS#確診88.9%(8/9)★c

NSAIDs非使用

     9.1%( 1/11) 

 *b23.5%(35/149)

 疑診+他脳症18.2%(14/77)

#:ライS=ライ症候群 ★a:p=0.0096    ★b:p=0.0008  ★c:p=0.0007
*a:ジクロフェナクand/orメフェナム酸*不使用+アセトアミノフェンのみ+その他

【生存脳症と痙攣誘発性薬剤との関連を示唆する証拠】

[13] 死亡脳症でも、また特に生存脳症ではNSAIDsを使用していない患者が多数いる[14] NSAIDsを使用していない患者の中にはテオフィリン、抗ヒスタミン剤(いわゆる抗アレルギー剤に分類されている抗ヒスタミン剤を含む)を使用中に痙攣重積状態となり、低酸素性脳症となり、後遺症を生じたは考えられる例が少なくない。

【確認のための疫学調査の方法とその必要性】

 欧米で症例対照研究によってライ症候群とアスピリンとの関連が何度も確認されたように, 日本にでライ症候群/脳症に関する症例対照研究を実施すれば, ジクロフェナクやメフェナム酸との関連が確認される可能性は極めて強い.調査方法に関する留意点は:

(1)日本におけるライ症候群/脳症の主因の可能性があるNSAIDsを解熱剤として使用することを, 特に小児では早急に中止すること.
(2)ライ症候群/脳症症例として、・死亡例、・生存後遺症例、・生存非後遺症例に分け、対照として・熱性痙攣のみあるいは・熱性けいれんもない単なる感染症のみの例とする.
(3)調査項目として、NSAIDs解熱剤アセトアミノフェンおよびその他解熱剤を含むすべての解熱剤および痙攣誘発性薬剤の使用状況を必ず含むこと。

【確認のための疫学調査で留意すべきポイント】

(1)医師の診療録調査を元に実施すべきである(日本での解熱剤の使用は大部分医師の処方によるため医師の診療録調査が必須である)
(2)個人情報の利用に関して注意しつつ,調査結果を患者の診療に直接役立てるとの明瞭な意図で実施すること
(3)調査の成否は、1.明確な仮説、2.それに必要な適切なデザイン, 3.公的資金と厚生省の感染症担当部局、医薬品担当部局, 感染症関係者, 小児科医, 薬剤疫学関係者, 医師会,医療機関が共同して調査研究にあたることができるかどうかにかかっている.

 

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