ベロテックエロゾルによる心肺停止を厚労省が認定

―最も危険な人への使用しか適応がないベロテックエロゾルは禁止を―

(要約版) NPO 医薬ビジランスセンター  浜 六郎

 

【1】ベロテック吸入中アダムス・ストークス症候群から突然心停止

 68才男性.55才頃から喘息発症.軽症で経過したが,転居後より予防的にベロテックエロゾルを開始,当初5.5 噴射/日、1年後約8 噴射/日、死亡前2カ月くらいは10噴射/日程度に増加していた.頻回になると「心臓が踊る」と言っていた.  ある朝、 ポットの湯を湯飲みに注いでいる途中で, 湯飲みを床に落とした(1回目のアダムス・ストークス発作)、その後自分で歩いてトイレに行った.トイレのドアが開いた状態で,便座に座っていたが,表情が普通でないなと妻が思った次の瞬間, 膝から床に転げ落ち敷居に顔面を打ちつけて倒れた.すぐ抱き起こしたが,すでに意識はなく, 頭はグラグラ. 呼吸停止していた.受診病院でも蘇生不能であった.

【2】副作用被害救済金支給決定理由は「心肺停止」

 医薬ビジランスセンターおよび医薬品・治療研究会では, これまでにも, 臭化水素酸フェノテロールの定量噴霧式吸入剤(ベロテックエロゾル)と喘息死の危険について分析し, TIP誌および, 2回の医薬ビジランスセミナーでも取り上げてきた.  ベロテックエロゾルを使用中に急死した遺族が厚生労働省(厚労省と略)所轄の「医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構」(医薬品機構と略)に遺族年金等の支給を申請していたが,検討を終えた3人中3人(上記はその一人)に対して, このほど, 死因「心肺停止」, 原因薬剤「ベロテックエロゾル」として厚労省が支給することを決定した.

【3】適正使用範囲で心臓死を公的に認定

 この決定次のような重要な意義がある.第一に, 公的に, 喘息患者の死因として「ベロテックエロゾル」の関与した「心肺停止=心臓死」と認めた点.  第二に, 認定は,適正使用による副作用と判断したことを意味する点.以前から「過度 の使用による心停止」は認めていたが,「適正使用するかぎり安全」としていた.  第三に, 疫学的関連でなく臨床的な症状の分析から心臓死が判定された点.  第四に, 他の非典型的突然死も心臓死の可能性を考えるべきことを意味する.

【4】症例による臨床的エビデンスを加え,因果関係は確実

 TIP2002年1月号では,上記の他、症例を詳しく紹介し,多数の疫学的,基礎・臨床薬理学的, 毒性学的エビデンスを総合的に検討.ベロテックエロゾルと喘息突然死との因果関係が確実であることを示し、現在の唯一の適応「他のβ2 刺激薬吸入剤が無効な場合」への使用が,実は最も危険であることを明らかにし,ベロテックエロゾルをできるかぎり早急に中止すべきことを訴えた.その概略を紹介する.

【5】ベロテック使用減で喘息死亡率激減

 ベロテックエロゾル販売開始後に喘息死亡率 (5-34歳男女, 人口10万対) は急に増加し、しばらく高い状態が続いていたが(1995年から2年間の平均0.65),97年5月の警告後0.40に減少し,さらに2001(前半)には0.27(直前の約40%)となった.  ベロテックエロゾルの販売数量は直後からの約1年間はほぼ半減し,2000年前半には30%未満となった.メプチン,サルタノール,ステロイド吸入剤(アルデシン)との関連は認められなかった.

【6】他の証拠も全て矛盾なく説明できる

 特に重要なのは、ベロテックはイソプレナリンよりも心刺激が強い程である点と,十分な酸素供給下では心停止や著しい不整脈を生じない用量のイソプレナリンでも,酸素欠乏下(酸素12%, 窒素88%の混合気体吸入)におかれた動物は容易に心停止を生じうる点である.この点は, 重積発作下で突然死が生じやすい事実と符号する.

【7】「他剤無効例」への使用が最も危険

 現在, ベロテックエロゾルの「警告」欄には, 「他のβ2 刺激薬吸入剤が無効な場合に限ること」と記載されているが,これは,喘息重積発作で著しく低酸素状態に陥っている時を示している.心毒性の強いベロテックエロゾルが最も危険な状態である.最も危険なことを推奨しているこの警告欄の表示は即刻廃止すべきである.唯一の適応であること状態への適応がなくなれば、ベロテックエロゾルの用途は消滅する.

【8】厚生省およびメーカー,医師に要望

 厚生省対しては,代替薬剤への移行期間をおいた後,販売中止を命じ,薬価基準からの削除もしくは製造承認取り消し措置を行い、メーカーに回収を指示すること。  製薬メーカー(日本ベッリンガーインゲルハイム社)に対しては、代替薬剤への移行期間をおいた後、販売を中止し、製品の回収を行うこと、を要望した。  医師は, 本薬剤を処方しないようにし, TIP誌1997年8,9 月合併号に詳述した方法にしたがって, 患者に対して, 他の薬剤に変更するように指導すべきであろう.  現在使用中の患者は, 主治医に相談のうえ, TIP誌1997年6 月号に詳述した方法にしたがって, 他の薬剤に変更することを勧める.

【参考文献】

TIP誌2002年1 月号、1997年6 月号、8,9 月合併号

 

 

 

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