(2008.08.05号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No112

タミフル:

  異常行動を起こす仕組みの解明進む

タミフル:
  少量で  脳内のドパミン増加(ラット)⇒異常行動につながる
  大量では、運動緩徐、低体温、呼吸抑制、死亡

 

この作用は、

ジアゼパム(ベンゾジアゼピン系睡眠剤、鎮静剤):
   少量で  脳内ドパミン増加(マウス)⇒運動量増加
   大量では、運動緩徐、低体温、呼吸抑制、死亡

と同じ現象。

タミフルが異常行動や突然死を起こすとの因果関係を認めるかどうかの議論が大詰めを迎えています。最近出された一連のワーキンググループ(WG)の結論の問題点については、速報108速報109速報110速報111で詳細に報告してきましたが、すべての事実が因果関係を支持しています。

これに加えて、「タミフルがドパミンという脳を興奮させる神経伝達物質を増加させる」という実験結果についても、呼吸抑制など中枢抑制剤の性質として解釈できることが分かりましたので、速報いたします。

タミフルはラット脳内ドパミンを増やす

最近報道され、注目されている、「タミフルを投与されたラットは、神経を興奮させる作用のある「ドパミン」が増加する」ことを突き止めたのは、自治医大のグループ(加藤精神医学教授ら、筆頭著者吉野達規氏)です。

この研究は、Yoshino T, Nisijima K, Shioda K, Yui K, Kato S. Oseltamivir (Tamiflu) increases dopamine levels in the rat medial prefrontal cortex. Neurosci Lett. 2008 Jun 13;438(1):67-9. Epub 2008 Apr 9.でサマリーを読むことができます。4月初旬には電子版としてすでに公表されていたものです。

この研究チームは、体重200〜250グラムのラット(生後約2か月でヒトの10代に相当)をタミフル群2群と、蒸留水のみの対照群の合計3群に分けて、脳内のドパミン量を比較しました。タミフルは25mg/kg群と100mg/kg群の2種類で、いずれも腹腔内に投与されています。

脳内ドパミンがタミフルで1.5〜2.2倍に増加

対照群ではドパミンの量は変化しなかったのですが、タミフルを投与したラットは、1時間後から脳内ドパミンの量が増加し、4時間後には対照群に比較してドパミン量が、1.56倍(25mg/kg群)、2.23倍(100mg/kg)となりました。100mg/kg投与群のラットは10分後に運動失調が現れ、数分間持続しました。タミフル投与後に現れた失調は、タミフルの中枢抑制作用が強く働いたためと考えればスムーズに説明できます。

タミフルによるドパミン増加のし方は覚醒剤やコカインとは異なる

ドパミンが過剰に分泌されると幻覚などを起こすことが分かっています。たとえば覚醒剤が用いられた場合にもそうなります。しかし、覚醒剤によるドパミンの増加は投与前の10倍にもなり、確実に現れますし、運動失調が現れることはありません。

タミフルによるドパミン増加の程度はそれほど大きいものではありません。また、Sato Kらによるin vitroの実験(ラットを生きたままではなく、取り出した脳で実験)では、アンフェタミン(覚醒剤)はドパミンの再取り込みを阻害し、遊離を増加させ、ドパミンを増加させましたが、タミフルは、ドパミンを増やしません(Sato Kら,Biol Pharm Bull. 30:1816,2007)(タミフルは、再取り込みも阻害せず、遊離も増加させていない。覚醒剤類似物質のコカインは、遊離は増加しないが、再取り込みを阻害してドパミンを増加させるので、これもタミフルの作用と異なる)。

それに、タミフルでは運動失調が現れたことでもあり、覚醒剤やコカインなどの作用とは全く異なると考えてよいでしょう。

ベンゾジアゼピン(睡眠剤・鎮静剤)による運動亢進もドパミン増加のため

タミフルは、動物に対して体温低下や行動緩徐、呼吸抑制の結果、死亡に至らしめます。ヒトでも、低体温や行動抑制、呼吸抑制を引き起こし突然死があることから、ベンゾジアゼピンと同様の作用を私は想定しています。

ベンゾジアゼピンでも幻覚や異常行動が起きるのは、脳の一部を抑制すると、逆にドパミンが過剰に出る場合があるのではないかと思って、ベンゾジアゼピン剤によるドパミン分泌に関する文献を検索したところ、まさしくその現象を証明した論文が見つかりました。
(Söderpalm B. Psychopharmacology (Berl). 104:97,1991)

この研究では、ベンゾジアゼピン剤の一種であるジアゼパムをマウスに少量投与すると運動量が最大で約1.5倍増加することが観察されました。この運動量の増加は、ベンゾジアゼピン拮抗剤であるフルマゼニルで抑制されるほか、ドパミンなどカテコラミン合成阻害剤である(α-メチルチロシン:α-MT)や、ドパミン拮抗剤であるハロペリドールで阻害され、ドパミンD1受容体の選択的拮抗剤のSCH23390や、ドパミンD2受容体の選択的拮抗剤であるスピペロンでも完全に抑制されました。これらのことからジアゼパムによる運動増加はドパミン増加を介していることが明らかにされたのです。

タミフルは致死脳中濃度の40〜400分の1の低濃度でも低体温を生じる

Ono Hら(Biol Pharm Bull 31:638,2008)は、5週齢のラットにOP 0mg/kg(対照)、OP100mg/kg、300mg/kg、1000mg/kg(いずれも経口)を用い、用量依存性に体温低下を認めています。100mg/kgでは対照に比し0.5℃、300mg/kgでは1℃、1000mg/kgでは2℃あまり低下していました。5週齢ラット100mg/kgの脳中濃度は、中外製薬のトキシコキネティックス(TK試験)の結果から推定すると、7日齢で非致死ラット脳中濃度(45μg/g)の約400分の1(0.11μg/g)、300mg/kgは130分の1、1000mg/kgは40分の1と推定できました。

つまり、ラットの致死用量に近い非致死脳中濃度の400分の1程度で体温が0.5℃低下し、130分の1で1℃、40分の1程度で2℃程度低下することを意味しているのです。

なお、体温低下について調べたこの実験から推定すると、タミフル30mg/kg腹腔内投与は、経口100mg/kgと300mg/kgとの中間程度の影響があり、腹腔内投与によるタミフル100mg/kgは経口投与の1000mg/kgよりやや少ない程度と推定されるため、腹腔内投与では経口投与の数倍〜10倍の影響が現れるようです。

タミフルは睡眠時間を長くする傾向があった

有意の差がないとして臨床WGでは何ら考察していませんが、わずか31人を対象とし、3回タミフルを使用しただけの新たな臨床試験で、タミフルは有意の差はないとはいえ、睡眠時間を増加させる傾向がありました(速報111)。これもベンゾジアゼピン剤の作用とよく似ています。

タミフルによる突然死・異常行動はベンゾジアゼピンと同じ作用による

これらのことを総合すると、タミフルは、以下のような働きをして異常行動や突然死を起こすと考えてまず間違いありません。

ベンゾジアゼピン剤と似た作用を有するタミフル(未変化体)は、インフルエンザにかかったときに脳中に移行しやすくなります。

その脳中濃度が少し高まれば、ドパミンが過剰に分泌されて幻覚や異常行動となって現れるでしょう。

そして、幼児や成人では脳中濃度が著しく高濃度となり、呼吸が止まって突然死することになると考えられます。

 このように、突然死も異常行動についても、その仕組みの全容が明らかになってきたといえるでしょう。


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