「いま医薬品を見直そう」 シリーズ

 

  

 

第32回 ライ症候群と解熱剤(3)
      使用するなら、アセトアミノフェンを少量  

  

1999年3月25日

 

 二回にわたってライ症候群と解熱剤に関するTIP誌の記事を紹介してきたが、質問や意見が多く寄せられ、大きな反響があった。
 最も多かったのは、「では、熱が出たら何を使ったらよいのだ」という質問。「小児のインフルエンザ感染時に解熱や鎮痛にはいったい何を使用したらよいのでしょうか」「PLもだめ、バファリンもいかんということで、使うもんがない。しようがないからポンタールシロップを買って処方するようにしたがあれはよく嘔吐する。何を使えばよいのか」など。
 また、歯科会員からは「外科処置や歯周病の鎮痛・抗炎症目的で使用するのも問題か」との質問もあった。

ポンタールなどNSAIDsはさらに危険】
解熱には使用しないように
 ポンタールなどについては前回、前々回でも触れたが、典型的な酸性系非ステロイド抗炎症剤である。質問にもあるように、PLもバファリンもだめと言われてポンタールを選択する医師もおられるので、その危険性について再度触れておく。
 ウサギに麻疹ウイルスに似たウイルスを接種したある実験では、解熱剤を使用しない場合、6羽中1羽が死亡しただけだが、ポンタールを使用したら10羽中7羽が死亡した。ウイルス量はポンタール群が千倍、インターフェロン量も増加。リンパ節の壊死性病変も出現した。
 人でも同様の壊死性変化や死亡率が増す危険は容易に想像できる。
 前々回に紹介したライ症候群の死亡と非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)の使用との関連を示すデータや、日本では急激な経過をたどる壊死性脳症が多いことと符号する。
 繰り返すが、ポンタールやボルタレンなど危険な非ステロイド抗炎症剤は解熱剤として使用しないでほしい。

歯科での外科処置や歯周病に対しては】
 ウイルス感染の発熱に対して解熱剤として使用するほどには危険ではないにしても、欧米では十四歳未満には使用が認められていないNSAIDsを小児に使用するのは不適切だ(ポンタールは感染症時の解熱以外は小児には適応症として認められていない)。
 やはり、アセトアミノフェンが安全である。

【アセトアミノフェン少量を】
 アセトアミノフェンは、非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)には属さず、抗炎症作用は比較的弱いが、鎮痛作用と解熱作用がある。
 アスピリン喘息患者に使用して交差過敏は3%程度にすぎない。
 水痘患者を対象に実施されたランダム化比較試験の結果、最終的な症状の回復はアセトアミノフェン群がプラシーボ群よりもかえって遅かった。アメリカのライ症候群の疫学調査では、アスピリンに比較して3〜50分の1の危険しかなかったが、ライ症候群になる危険が全くないわけではない。
 基本的には解熱剤は使用しない方がよいのだが、頭痛で不眠になるような場合には、アセトアミノフェンを少量使用するとよい。
 筆者が発熱患者への処方の際の説明でよく例に出すことが二つある。
 一つは、解熱剤を使った方がよく死ぬというポンタールの実験。
 もう一つは、ウイルスを感染させて眠らせなかった動物は、好きなだけ眠らせた場合よりも死亡が多かったという実験だ。
 解熱剤を使用して一見楽になったように思って仕事をしたり、十分眠らず無理をすると悪化する危険性を説明する。インフルエンザでは睡眠は重要なので、頭痛などでどうしても眠られない場合にアセトアミノフェンを使用すればよいと言うと、大抵納得してもらえる。
 筆者自身もこの冬インフルエンザで39℃の熱が出たが、頭痛で不眠時にアセトアミノフェン200mgを一回服用しただけ。あとはひたすら眠るようにしたが、一日で解熱した。
 しかし、急に処方習慣を変更するのは抵抗も大きいと思われる。
 やむを得ない場合は、アセトアミノフェンを少量、かならず頓用として処方し、どうしても我慢できない場合にだけ使用するようにという注意をしておくべきだろう。

【アセトアミノフェン製剤】
 市販されているアセトアミノフェン製剤は、日本医薬品集一九九八〜一九九九 年版によれば、アスペイン末(丸石)、アセトアミノフェン末(東洋製化−小野薬品、健栄、吉田)、アニルーメ細粒20%(分包1g)、S坐剤100・200mg(長生堂−佐藤)、アフロギス坐剤100・200mg(日新−山形)、アルビニー坐剤50・100・200mg(エスエス−三和化学)、アンヒバ坐剤50・100・200mg(北陸)、カロナール細粒20%(分包0,5g、1g)錠200mg、坐剤100・200mg(昭和薬化工)、ナパ末(メルク・ホエイ)、ピリナジン末(山之内)、ピレチノール末(岩城)がある。言うまでもないが、内服を優先すべきである。