イレッサ情報 No14(2003.05.13号)

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版

  

FDAは日本におけるゲフィチニブの本当の危険性を見逃したのか

NPO法人医薬ビジランスセンター    浜  六郎

アストラゼネカ社は、アメリカFDAとオーストラリア政府がイレッサを承認したと報じています。この件に関して、BMJ(イギリス医師会雑誌)はNewsとしてDyer O. 氏による“FDA announces fast track approval of new drug for lung cancer”(BMJ 2003;326:1004)を掲載しました。

そこではこれまでに私たちが欲しいと思っていたイレッサの売り上げの変化が載っていました。

2002年の10〜12月の売り上げは4100万ドル(48億円)、今年1〜3月の売り上げは1900万ドル(22億円)と言います。つまり売り上げ46%程度に下がっているのです。

この点に注目し、5月2日の厚労省ゲフィチニブ検討会で示された長崎原爆病院や国立ガンセンター病院の副作用死亡率データを紹介し、厚労省発表の日本における市販後副作用報告の推移と安全対策の厚労省コメントに対して批判を加えて投稿しましたら、早速電子版BMJに掲載されました。

以下にその翻訳を紹介します。


FDAは日本におけるゲフィチニブの本当の危険性を見逃したのか

アストラゼネカ社1)によれば、FDAは第Ⅱ相臨床試験(試験番号39)のデータに基づいてイレッサ(ゲフィチニブ)を承認したとのことである。216人の対象者のうち142人を分析し、反応率(部分反応率)は13.6%(95%信頼区間:6.4-24.3%)であったとしている。しかし、FDAによる、審査概要書2)には、250mg群の反応率は11.8%(95%信頼区間:5.5-18.0%)であり、合計の部分反応率は10.2% (95%CI: 6.5%, 15%)であった。FDAの分析では, プラチナ剤とドセタキセルのどちらにも反応しないか、それらが使用できない(つまり本来の適応)患者は、実際には216人中139であった。また、他の理由による除外例も除外すると、適切な対象者は107例であった。また、不適切な例を除いて解析しても、反応率は変わりなかった。反応期間の中央値が長くなったことだけが、#No39試験を再解析して、変化したことではないかと思われる。

アストラゼネカ社は、高頻度に見られる副作用は通常軽度ないしは中等度なものであったという。副作用のために中止した患者は2%であった。間質性肺疾患(ILD)は約1%に認められ、そのうち死亡例は3分の1であった。米国の拡大適用計画で使用された23000人中間質性肺疾患の頻度は0.3%であった。日本の市販後調査の間質性肺疾患炎の頻度は2%であった、としている。

しかし事実は以下のとおりである。

日本の癌治療4施設での集中調査によれば、副作用死亡率は11.1% (2/18) 3), 0.7% (1/149), 3.6% (4/112) 、4.8% (5/102) (後3者は厚労省安全対策課が5月2日公表した資料:イレッサ情報No13参照)であった。合計の副作用死亡率は3.2 % (12/381: 95%信頼区間; 1.4-4.9)。この死亡率は、第Ⅰ相と第Ⅱ相臨床試験の合計副作用死亡率(0.3%=2/677)よりも有意に高率であり(オッズ比11.0;95%信頼区間;2.4-49, p<0.001)、日本を除く第Ⅱ相までの臨床試験の有害事象死亡率(3.1から13 %に分布し、合計6.1%=33/544) と同じレベルである。

これらの事実は、臨床試験において、副作用死亡例が試験担当医によって試験物質と関連がないと考えられたことを意味する。日本では、市販後多数の死亡例が報告され2003年4月22日現在で246人の間質性肺疾患死亡例が報告されている。したがって、これら「関連なし」とされた例の大部分は、「関連がありうる(副作用例)」と分類すべき例であったと考えられる。

日本の厚労省は、ゲフィチニブの危険よりも利益が上回る状態が続いているとしている。その理由として、新しい使用ガイドラインを導入した本年にはいって、副作用の率が激減したことをあげている4)。

しかしこの見解は事実を正しく伝えない(間違いである)。その理由としては、Dyer氏ものべておられるように、ゲフィチニブの販売数量が半分以下に減ったことである(2002年第4四半期4100万ドル→2003年第1四半期1900万ドル)4)。もう一つの重要な理由は、ある特定の時期を追跡していくと、時間の経過とともに死亡数が増えていることである5)。たとえば、2002年の最後の2カ月間 に間質性肺疾患で死亡した人数の変化をみてみよう。2002年末にこれは、31人であったが、1月末には62人になり、4月末には107人に増加した。今年にはいってから(新ガイドライン導入後)の死亡数は現時点での死亡数の2〜3倍に増加するにちがいない。したがって、ゲフィチニブ使用者中の死亡率は実質的に減少していないと私は推測している。

最近公表されたINTACT-1では、有害事象死亡率はプラシーボ群よりもゲフィチニブ250mg群の方が高い傾向が認められた。p値が0.07程度であるので厳密には有意とは言えないが、もし、対照群に1人でも死亡者が少ないか、ゲフィチニブ群に1人でも死亡例が多ければp<0.05で有意になる5)。

ほとんどすべての細胞はEGFRを有している。ゲフィチニブは癌細胞を阻害するだけではなく、正常細胞の生理的な再生過程、とくに傷害から回復過程で上皮成長因子(EGF)をより多く要求する組織を阻害する。この作用は、傷害角膜や、ブレオマイシン誘発性肺胞傷害の動物モデルで証明されている。さらに、臨床用量(5mg/kg)を用いた6カ月毒性試験では、肺傷害が示唆され、8頭中1頭が死亡した。詳細な情報とその根拠文献は筆者らによる 2 論文を参照されたい5,6)。

NPO法人医薬ビジランスセンター    浜  六郎

References

  1. http://www.astrazeneca-us.com/news/article.asp?file=2003050501.htm[accessed May 6, 2003]
  2. FDA-Medical Officer Review[Accessed May 6, 2003]
  3. Inoue A, Saijo Y, Maemondo M, Gomi K, Tokue Y, Kimura Y, et al. Severe acute interstitial pneumonia and gefitinib. Lancet 2003; 361(9352): 137-9.
  4. Dyer O. FDA announces fast track approval of new drug for lung cancer. BMJ 2003;326:1004 [accessed May 9, 2003]
  5. Hama, R. Gefitinib: death due to adverse reaction may be more than a thousand (in Japanese). Web-Kusuri-no-Check May 5, 2003 [accessed May 6, 2003]
  6. Hama, R. and Sakaguchi K. "Gefitinib Story." ISDB Newsletter 2003 (Mar): 17 (1): 6-9 [accessed May 6, 2003]
Hama, Rokuro MD
Chairman
NPOJIP: Non-Profit Organization "Japan Institute of Pharmacovigilance"

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