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「メフェナム酸等の使用禁止」について

NPO法人医薬ビジランスセンター 2001年5月31日

 

 

EBMビジランス研究所        所長

 

NPO法人医薬ビジランスセンター  理事長  浜 六郎

〔まとめ〕

 

1.

過去の厚生省研究での非ステロイド抗炎症剤とライ症候群との因果関係を厚生労働省は認めていないが、非ステロイド抗炎症剤とライ症候群との関連を示す明白なデータが、厚生省自身による以前からの研究で数多く判明している。

 

2.

インフルエンザ等ウイルス感染症に「原則禁忌」ではなく「禁忌」とすべきウイルス感染症と区別がつかない上気道感染も適応から外すべきである。

 

3.

メフェナム酸も含め、全ての非ステロイド抗炎症剤との関連を認め、ジクロフェナクだけでなく、すべての非ステロイド抗炎症剤を対象とした措置をとるべきである。

 

4.

小児だけでなく、大人にも(とくに高齢者)「禁忌」とすべきである。

 

5.

厚生労働省は、過去のデータを適切に分析して明確な答えをだすべきである。

 厚生労働省が5月30日、「メフェナム酸を小児のインフルエンザには使用しない」よう、また「ジクロフェナクを小児のインフルエンザなどウイルス性疾患に原則禁忌(原則的に禁止)する」という趣旨の措置をとることを発表した。

 これは昨年11月の措置に比較すれば、確かにまた一歩前進である。この時の措置では、ジクロフェナクをインフルエンザにかかっただけでは禁止しておらず、「脳症」になって初めて「禁止」としていたからだ。

 私たちは、この問題を特に重要と考えて、EBMビジランス研究所、NPOJIP、TIP誌、朝日新聞などで機会あるごとに詳しく取り上げてきた。、以前からジクロフェナクに限らず、メフェナム酸など非ステロイド抗炎症剤は、解熱剤として使用しないように主張してきた。長年の主張をやっと認めて厚生労働省が重い腰を上げたといえるように思う。

 しかし、まだまだ、その措置は遅すぎる上に不完全である。

 まず第1に、根拠としたデータは、ほとんど科学的検討に耐えない。私がこれまでに厚生省の研究をしらみ潰しにみて発見していた研究データも含めてどうして一緒に検討しないのか。これまでのデータだけでも科学的に判定して明瞭に危険性を示している。

 第2に、ジクロフェナクにしてもはっきりとした「禁止(禁忌)」ではなく、「原則禁忌」というあいまいさな措置である。

 第3に、インフルエンザには使えないが、上気道炎への使用は認めようとしている。上気道炎は、細菌によるものだけでなく、ウイルスでも起きる。ふつうの「かぜ」やインフルエンザも上気道炎とはほとんど区別がつかない。医療現場の混乱は必至である。

 第4に、ジクロフェナク以外の非ステロイド抗炎症剤はさらにあいまいだ。メフェナム酸は、インフルエンザには禁忌(原則禁忌?)となるそうだが、データ上、危険性を認めたわけではない。しかも、これも「かぜ」には使ってもよい状態がまだ続くようである。

 第5に、アセトアミノフェンという代替薬があることが分かったのは、今年のインフルエンザシーズンの経験からだという。解熱にはアセトアミノフェンを用いるのは、世界の常識であり、日本が世界の常識から遅れていただけなるだが。

 最後に、今回のデータでは小児だけでなく大人のライ症候群や脳症も多数報告され、解熱剤の規制は大人にも必要だということが示されているが、不思議なことに規制は小児だけである。

【1】過去の厚生省研究での「解熱鎮痛剤とライ症候群との因果関係」を認めていない

 昭和57年から平成8年度まで、厚生省は、解熱鎮痛剤とライ症候群に関する調査を実施してきたが、「明確な因果関係は確認されていない」としている。

 今回示されたデータは、これまでの厚生省の研究ではなく、企業や医師から平成6年以来厚生省に報告された症例であるようだ。これらの症例を検討したところ、28人の解熱剤が関係している可能性のある脳症やライ症候群が見つかったので、これらの症例を検討したそうである。

 ジクロフェナクを使用していた人が10人あり、アスピリンなどサリチル酸剤と似た発生傾向が認められたし、他の薬剤で代替できるので、「原則禁忌」としたという。メフェナム酸については、その影響の評価することはできないが、インフルエンザには使用しないことで合意ができたから、今回そのような措置とした、とのことであった。

 では、今回のデータは、10数年にわたる厚生省の研究結果を越えるような明瞭な結果であったのか。厚生省が示した今回のデータを少し詳しく見てみよう。

 今回のデータでは、アセトアミノフェンを使用した人では6人中1人しか死亡していないが、メフェナム酸を使用した5人中4人が死亡していた。死亡の危険(オッズ比)はアセトアミノフェンを使用した場合の20倍(95%信頼区間0.93-430)となり、統計学的にも意味がある値に近いが、厳密にはそうとは言えない。ジクロフェナクにしても、10人中6人は死亡しているので、アセトアミノフェンの場合よりも圧倒的に多い(オッズ比7.5:95%信頼区間 0.62-90) のだが、それでも統計学的に、明瞭な意味があるとデータとは言えない。ただし、厚生労働省では、これらのデータについて、このような統計的な解析もしていない。

 ところが、実は、この種の解析をして統計学的に意味のあるデータは、過去には何度もあったのである。

 単なる急性脳症や脳症でも死亡を免れた例では、ジクロフェナクやメフェナム酸はほとんど使用されていなかったが、死亡したり、ライ症候群のような重い脳症では、これら非ステロイド抗炎症剤がたくさん使用されていたのである。

 このようなデータは、平成2〜4年度や、平成5年度の厚生省研究班の報告書には明瞭に記載されている。たとえば、平成5年度の報告書では、「メフェナム酸はRS+CRS〔註1〕での投与率が28.1%(32例中9例)、AE(その他の急性脳症:註2)で0%であり、注目すべきと思われたが、比較的繁用されている薬剤であるにもかかわらずこれまでライ症候群との関連を論じた論文を内外から報告されていないので、問題はないものと考えられる。」としている。

  註1:RS:確定ライ症候群  CRS:臨床診断ライ症候群 

        ライ症候群は急性脳症+肝障害、確定ライ症候群は肝生検で確認

  註2:AE:その他の急性脳症、19例中メフェナム酸/ジクロフェナク使用例は0

 そして、「メフェナム酸とジクロフェナクを合わせた投与率はRS+CRSでは12/32(37.5%)、AEでは0%」とされている(0%は19人中0人のこと)。しかも「昭和62年以前に比較して、昭和63年以降は、メフェナム酸やジクロフェナクのような非ステロイド抗炎症剤がRSやCRSに投与される率が増加しているのが認められた。」ともしている。これは、ジクロフェナクやメフェナム酸など非ステロイド抗炎症剤を使用すると、使用しない場合に比較して、ライ症候群を起こす危険は少なくとも10倍以上(95%信頼区間の下限は1.26)になる。統計学的に意味がある数字である。

 しかも、この年度の報告書には、同様のことが近畿地区でも認められたことを報告している。「同様の検討を近畿地区で報告された症例について行ったところ、非ステロイド抗炎症剤の投与率はRSでは 9/48 (18.8%)、CRSでは12/40 (30.0)、AEでは 3/45 (6.7%)であり、AEにおけるよりもRSやCRSではその投与率が高かった。これは全国調査の昭和63年以降の成績と同様であり、注目すべきと思われる。」である。

 確定ライ症候群と臨床ライ症候群を合計すると、21/88(23.9%)が非ステロイド抗炎症剤を使用しており、急性脳症との間には統計学的に優位の差があった。このデータからは、非ステロイド抗炎症剤を使用すると使用しない場合よりも、ライ症候群に4倍かかりやすい (95%信頼区間1.2-15.6倍) ということになる。やはり統計学的に意味のあるデータである。

 これだけの例が報告され、報告書でも「注目すべきである」と考えたのに、「これまでに同様の報告がない」として、「問題ない」とのおかしな論理で関連を否定してしまったのである。

 今回の厚生労働省の発表したデータに比較して、これら過去の厚生省のデータや近畿の医師会のデータは数も圧倒的多く、信頼性の高いデータであるし、そのようなデータが、昨年までに少なくとも、8件はあった。

 これまでの調査で、すでに明確な危険を示すデータが多数ありながら、適切な処置をとって来なかったため、ハンセン病対策でも国の不作為が問われたように、すでに国はこの問題では不作為を問われてもしかたない事態である。しかし、これ以上対策を講じないとなれば、さらに大きな不作為を問われかねないことになる。このための苦肉の一策であったといっては言い過ぎだろうか。

【2】インフルエンザ等ウイルス感染症に「原則禁忌」ではなく「禁忌」とすべき

   ウイルス感染症と区別がつかない上気道感染も適応から外すべきである。

 今回の措置では、明確な「禁止(禁忌)」ではなく、「原則禁忌」というあいまいさを残す措置であった。これほどデータがそろってきているのであるから、「原則禁忌」というあいまいな表現ではなく、インフルエンザ等ウイルス感染症全般に「禁忌」とすべきである。

 また、抗生物質が有効な感染症でも、危険性は否定できないし、ウイルス感染症と細菌感染症の鑑別は臨床的にはほとんど不可能である。かぜ症候群と上気道感染症は実質上区別がつかない。このような状況を考慮すれば、上気道感染症の解熱にジクロフェナクやメフェナム酸がまだ使用可能、という状態が続けば、医療現場には混乱が持ち込まれるだけである。

 上気道感染症を含めて、解熱目的としての非ステロイド抗炎症剤はすべて禁忌(禁止)とすべきである。

【3】メフェナム酸も含め、全ての非ステロイド抗炎症剤との関連を認めるべきである

   そのうえで、ジクロフェナクだけでなく、すべての非ステロイド抗炎症剤を対象として、上気道感染も含めた感染症の解熱目的での使用を禁止すべきである。

 今回の厚生労働省の見解では、医薬品安全部会で、メフェナム酸を含め他の非ステロイド抗炎症剤と脳症発症との因果関係を全く認めていない。メフェナム酸の危険を明確には認められないが、異例の措置として、「インフルエンザの解熱目的でメフェナム酸を使用しないことに合意が得られた」としている。そのうえで、安全性を重視した「異例の措置」であることを強調している。

 メーカーが「インフルエンザの解熱目的でメフェナム酸を使用しないことに同意したい」と言い、医薬品安全性部会として「不確実な情報下における患者の安全と最善の対応を考えるならば、インフルエンザの解熱目的でメフェナム酸は使用しない旨の対応をとることで一致できる。」としているだけである。あくまでも、「危険との情報は不確実である」と、メフェナム酸そのものの危険性を認めてはいない。「単に他の解熱剤が使用できるからそれほど危険とは言えないが使わないでもよい」という程度にしか、認識していないのである。

 このように、メフェナム酸の使用しないことで合意ができたとしているが、添付文書上どのような記載になるかも、未だ不明である。

 しかし、過去には危険性を示すデータが上述のように多数あり、これらと今回のデータからして、危険性は明らかである。

 メフェナム酸も含め、全ての非ステロイド抗炎症剤との関連を認めるべきである。そのうえで、ジクロフェナクだけでなく、すべての非ステロイド抗炎症剤を対象として、上気道感染も含めた感染症の解熱目的での使用を禁止すべきである。 

【4】小児だけでなく大人の解熱剤の規制も必要

 今回公表された症例を見ると、28人中12人が15歳以上の大人である。この中には15歳男性のライ症候群確定例(1人)、33歳(女性)や77歳(女性)ライ症候群(非典型例だが脂肪肝を認める)と合計3例のライ症候群も含む。これは驚くべき数字である。脳症やライ症候群になるのが小児だけではないことを強く示唆している。

 ところが、今回の発表のタイトルは「小児のライ症候群等に関するジクロフェナクナトリウムの使用上の注意の改訂について」であり、検討の結果、今回の対応として、

 (1) 「重要な基本的注意」の項に、小児のウイルス性疾患の患者への投与を原則禁忌とする記載を新たに追加するとともに、引き続き「重大な副作用」として急性脳症への注意喚起を図る。

 としているだけであり、大人に対する措置が、全く含まれていない。

【5】提案

 今回の措置は、このような種々の問題点を抱えてはいるものの、これまでの措置に比較すればさらに一歩前進ではある。いま一歩、踏み込んだ措置を求めたい。

 

1)

ジクロフェナクだけでなく全ての非ステロイド抗炎症剤を解熱に使用すべきでない。解熱目的には、アセトアミノフェンのみを適応とすべきである。

 

2)

上記の中には、アスピリンなどサリチル酸剤はもちろん、メフェナム酸やイブプロフェン、スルピリンも含めるべきである。

 

3)

インフルエンザだけでなく、上気道炎も含めて解熱に使用しないようにすべきである。

 

4)

小児だけでなく、大人にも、非ステロイド抗炎症剤を解熱剤として使用しないように禁忌とすべきである。(解熱剤は、アセトアミノフェンのみとすること)。

 

5)

これまでの厚生省の調査結果をより詳細に分析し、非ステロイド抗炎症剤とライ症候群など脳症罹患との関連を確認すべきである。

 

6)

これまでの症例を用いて、カルテ調査による症例対照研究を実施すべきである。

 

7)

アセトアミノフェン以外の解熱剤の保険診療上の適切な審査や、処方実態調査などを通じて、解熱剤の処方の適切なモニタリング、監視をすべきである。

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